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2013年03月23日

突破できない強固なアリバイ!『点と線/松本清張』の感想

  • 1333文字
  • 約 02分51秒 で読めます

書名 点と線
著者 松本清張
出版社 新潮社
発売日 1971-05-25
感想一言 推理小説の中でも、読者と著者が知恵比べの火花を散らす「アリバイ破り」と呼ばれるジャンルの真髄をみよ

松本清張の『点と線』は、「アリバイ破り」といわれるジャンルに属する中編推理小説。200ページ程度の文庫本であり、2時間程度で読み終えられるため、少し長めの電車旅なぞに、書店で1冊買って読むのにオススメできるような本だ。

物語の序盤から、とにかく「わざとらしく」「きな臭い」行動をとる、安田という人物。あきらかに犯人だと読者にもわかるので、ひたすら後は自分でも推理を楽しみながら、どうやって殺人にいたったのかを楽しみながら読み進められます。

そして、推理小説における「探偵」の役割である刑事が、読者の思った疑問を次々に調査していくそのテンポの心地よさには、「そうそう」「そこ攻めよ」とおもったように動いてくれ、読み心地は実に小気味よい。

 

だがしかし

 

破れない。とにかく安田が倒せないのである。

推理を進めながら読む読者である自分と、作中の刑事は、ともに犯人安田の完璧すぎる「アリバイ」に、ことごとく打ちのめされるのである。たとえば……

 

・電車のダイアトリックかとおもって旅客名簿を調べたら、きちんと直筆で名前が残っている

・「そうだ、飛行機で移動も出来るじゃん!」と飛行機を調べるも、安田の名前はない。当然偽名だろうとおもって当日の全旅客者の電話番号をゲットし、総勢150名近くの人たちに一人一人電話をして本人確認をとると、すべて実在の人物であったことがわかる。

 

以上のような、調査の結果わかってきた事実に基づく仮設の閃き⇛仮設調査⇛打ちのめされるの繰り返しなのである。

探偵「三原」と読者は、共に打ちのめされることで、共感を深めていくだろうから、ますます読み進めるのが楽しくなり、ちょっとやそっとじゃ途中で読むのをやめられない。

 

そう、共に戦う探偵の三原を見捨てて、本を閉じることはできないのだ。

 

本書の推理小説としての価値は、殺人事件における動機の部分を、個人の事情ではなく、組織悪とつなげて社会を巻き込む点にある、と解説にある。

情死に見せかけられて死ぬのは、汚職事件まっただ中の某省庁で実務をとっていた課長補佐であり、安田は工務店系で省庁から仕事をもらう立場の人間。

汚職×推理といえば、横山秀夫さんの名作「震度0」を最近では思い浮かべてしまう。

本作を気に入った人はぜひ読んでみてほしい。震度0は、殺人事件を発端とした、警察庁の権利闘争をモデルとした作品で、殺人事件の解決よりもどの部署が手柄を得るかに重きをおいて、警察庁内で情報撹乱が起こって黒い暗闘が行われる、一風変わった推理小説で、絶妙におもしろい。

 

本作のキモには、昭和ならではの電車ダイアトリックも含まれているので、時刻表好きにもたまらない作品だと思う。電車の旅や、午後から予定のある休日の午前など、ちょっと大きめの空き時間がある日にぜひ手にとって、知的興奮を味わってほしい。

 

事件の解決を手紙で終わらせる引き際といい、私はこの作品を好きだ。

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